SDL Tradosユーザーのつどい
10月24日は「SDL Tradosユーザーのつどい」にパネリストとして参加した。SDL Tradosが主催する「SDL Trados Discovery Day」のセッションとして開催されたものだ。
私のことをよく知っている人はびっくりだろう。私は、Tradosに代表される翻訳メモリの使用に基本的に反対という立場なのだから。パネリストにという話を打診してきたモデレーターの河野さんに「知ってるはずだけど、念のため確認。私が翻訳メモリの使用には反対だって知ってますよね?」と聞き返してしまったくらいである。それに対し、「話の幅を広げたいからお願いしようと思った」との返事が返ってきたので受けることにした。
3人のパネリストで1時間。15分ずつの持ち時間+質疑応答という形式だった。
河野さんはtratool-jp(翻訳支援ソフトに関する情報交換のメーリングリスト)の管理人として、tratool-jpの活用方法や発展の可能性などの話を中心に、Trados活用のヒントも少々。
二番目の山本ゆうじさんは、「認定プログラムでSDL Tradosに対する見方が変わる」と題して、SDL Tradosの認定試験関連の話。使い方がけっこうややこしかったりするようなので、認定プログラムといった形で網羅的に勉強するのはツールの使いこなしという面でプラスはあるだろうと思う。もちろん、自分でどんどん使い込んでいける人もいるわけで、全員に必要というものでもないだろうが。
私は「翻訳者が幸福になるための道具-ツールに使われないために」と題して話をした。
この日、集まっている人たちの大半は、翻訳メモリの使用が是であれ非であれ使わざるを得ない分野の仕事をしている人たちのはず。だから、「翻訳メモリを使う」ことを前提に話を組みたてることにした。是か非かは検討してもせんない話なので。私と山本ゆうじさんのバトルを期待した人もいたようだが……(山本さんは、私が大反対している機械翻訳ソフトの使用を推進している人なので)
話の冒頭、「仕事をしていて楽しいか」という問いに楽しいと答えた人は1~2割。「この仕事を、今後、20年、30年、40年と続ける未来を想像したとき、そういう生活をしたいと思うか」という問いも肯定した人は1~2割。5年、10年ならどうやっても何とかなるが、それ以上、続けて行くなら、やはり、楽しさ、やりがいといったものが必要になるはず。私は、この仕事をしていて楽しいし、この生活を続けたいとも思う。もちろん、楽しいことばかりではないが、「あなたに頼んでよかった」と言われたときや、ちょっとした工夫ですっきりした訳文ができたときなどに楽しさややりがいといったものを感じるからだ。そういう精神的な報酬なしにただお金のために訳していたら……疲弊してしまうだろう。
一方、JTF翻訳祭のレポートでもちょっと触れたが、発注元では案件の選別が進みつつあり、品質を求めないものについてはコミュニティ、中国をはじめとする海外、機械翻訳といった方式の導入が始まっている。その中で生き残るためには、やはり、翻訳者が翻訳者であるゆえんの部分、要するに、翻訳の力をつける必要がある。力をつけられなければ、生き残れない環境になりつつあるわけだ。
結局、翻訳者としての力がつけば、楽しみを感じられることも増え、環境が変化しても生き残れる。翻訳者としての力をつけるには……ツールの使い方といった部分の先、翻訳そのものに真剣に向き合い、一文、一文を丁寧に訳してゆく必要がある。用語集にあったら終わりではなく、用語集にあるものでも念のため辞書を引くといった地道な努力を継続する必要がある。ツールも、翻訳メモリなどできあいのものだけでなく、一般翻訳で使われているようなものも組み合わせたほうがいい。
……と、そんな感じの話をした。
その後、一部の人たちと一緒にお昼を食べたのだが、何人もの人から、「そうですよね~」「目からウロコでした」といったコメントをいただいた。まあ、悪い評価というのは本人に返ってこないものであり、少なくとも一部に好評だったことしかわからないのだけれど。
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