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2008年10月23日 (木)

JTF翻訳祭2008

今週、10月22日にJTF(日本翻訳連盟)翻訳祭が開催された。理事をしていることもあって、毎年、参加しているのだが、その感想などを書いてみたい。

今年の有料セッションは、講演×2、パネルディスカッション×1。

●有料セッション

最初のセッションは、「『IT翻訳の発注側からみた品質管理と翻訳会社への期待』~求めているのはパートナーです~」と題したサン・マイクロシステムズの方のお話。題名からもわかるように基本的に翻訳会社向けの話だったので内容のレポートは割愛する。

翻訳者として「ん?」と思ったのは、最後のほうで軽く触れられていた「新しい形」。翻訳するドキュメントのうち、品質を要求しないものについては、サンの製品をサポートする「コミュニティ」にお願いし、品質を要求するもののみ従来の発注ルートで流すことが始まっているというのだ。

こういう形が始まっていること自体は驚くに当たらない。私が訳者となっている『ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』(日経BP)で盛んに紹介されていた「新しい形」なのだから。

それは違うなぁと思ったのは、「コミュニティによる翻訳は無償だが、そこへの参加を通じてアピールし、有償案件の受注につなげるという形で翻訳者にも使ってもらえる」と講演者が言われたこと。コミュニティによる処理の特色は、今まで従来ルートでは仕事をしてこなかった人、仕事になるとは思わなかった人と仕事をつなげることができる点だ。また、その前提は、「それをすることが楽しいからする、やりたいからやる」であって、そこに仕事がついてくる「ことがある」だけである。「後ろにある有償の仕事が欲しいからする」のではない。そのあたりをごっちゃにすると、みんなが不幸になると思う。

二番目は「『高まるリーガル翻訳者の役割』~指名される翻訳者への道~」と題した飯泉さんの話。こちらは基本的に翻訳者向けである。話を一言でまとめると……飯泉節。飯泉さんとはお友だちであることもありあちこちで話を聞いているが、いつも歯切れよく訴えてくるので、話が上手だなぁと思ってしまう。内容を細かくレポートしても仕方ないというか、具体的な話が多く簡単にまとめられるものでもないので割愛m(_ _)m

飯泉さんは講演されることがけっこうあるので、一度は聞いておくといいと思う。ご本人もいつも言われるのだが、「自分の分野はリーガルじゃないから関係ない」と思わず、一度、聞いておくといい。リーガル系の話が普通の案件にちょろっと紛れ込んでいるなんてことが珍しくないからだ。

三番目はパネルディスカッション。テーマは「『翻訳業界とクライアントの共生』~真のWin-Win関係を目指して~」。ソースクライアント2社、翻訳会社2社、翻訳者2人が壇上にあがり、それぞれの立場から問題点や改善の可能性などを話しあった。結論めいたものが出るほど簡単なテーマではないので、これまた詳しいレポートは割愛するが(って、全部割愛してますね^^;)……えいやっとまとめてしまうと、「品質を上げるという側面では、三者三様の工夫の余地がいろいろとあり、Win-Winの関係が築ける可能性があるのではないか。ただ、価格やコストといった側面のWin-Winは難しい……」と言えるのではないかと思う。

ただ、パネルディスカッションで出た話を総合すると、そう悲観するものではないようにも思う。

後処理のコストや翻訳後に完成した文書の質が悪いことによる逸失利益あるいは直接的な損害といった部分まで含めて考えれば、価格やコストについてWin-Winを実現できると思うのだ。

パネルでは、「翻訳者が訳した後、さまざまな後処理をしており、そこにかなりのコストがかかっている。このあたりはもっと合理化できると思う」といった話や「翻訳がうまくなかったから特許がきちんと権利化できておらず、4億の損害が出た例がある」といった話が出ていた。後処理コストを削減する一番簡単な方法は、翻訳者が優れた一次訳を上げることだろう。後者の問題についても、解決策は同じ。削減された後処理コスト、逸失せずにすんだ利益、出さずにすんだ損害……それをクライアントと翻訳会社と翻訳者で分配できれば……価格やコストについてのWin-Winになる。

もちろん、翻訳者はピンキリで、誰でもそれだけの品質の翻訳ができるわけではない。それこそ駆けだしの人にそこまで要求してもできないのが当たり前。そういう人には、そこまで品質を要求しない案件をやってもらえばいい。価格(コスト)は品質並みで下がるわけだが、それはそれでいい。翻訳者から見れば、それは、力をつければ料金も上がるという向上努力に対するインセンティブとしても働くのだから。そうして力をつければ、後処理のコスト削減に寄与できる訳者となり、ソースクライアントや翻訳会社にもメリットが生まれる。

もちろんこれは理想論にすぎず、現実にはいろいろと問題があって実現が難しいわけではあるが。

今年はなぜか、交流会で乾杯の音頭を仰せつかっていたので、そのとき、上記のようなことを話させてもらった。

たぶん、こういうテーマなら何か言いたいことがあるだろうと翻訳祭実行委員長の加賀美さん(シュタール ジャパンの社長さん)が気を遣ってくださったのだと思う。余談だが、今回の翻訳祭の運営を通じ、加賀美さんは上手に人を使われる方だという印象を受けた。とある翻訳会社の社長さんにその話をすると「その通り」とのこと。私はそういうことが不得意なもので、上手にされる人を見るとすごいなぁと思ってしまう。

●翻訳プラザ

翻訳祭のときには、無料で入れる「翻訳プラザ」が設置される。翻訳支援ソフトの会社や翻訳学校、翻訳会社、出版社などがブースを出しており、ソフトウェアのデモや説明、製品の優待販売などが行われる。

私は例年、日外さんのブースで辞書を買うのだが……今年は何も買わなかった。めぼしいものはすでに買ってしまったし、新しい辞書が出ていないし、だったので。日外の方に聞くと、電子辞書は事業的に難しく、撤退するところも少なくないそうだ。日本語の市場が小さいのが一番の問題だろうとのことなので、事態が改善する可能性はないのかもしれない。

10年ちょっと前、さまざまな辞書が電子化され、翻訳の作業環境が一気に向上したのだが、この状態がいつまでも続くとは限らないのかもしれない。

●翻訳祭前のミニオフ

翻訳祭には、翻訳フォーラムに参加している人を含め、個人翻訳者もかなりの人数が参加する。そのため、翻訳祭前にお昼ご飯を食べながらのミニオフを開催した。といっても、「やるよ~」とフォーラムで声をかけておき、レストランに現地集合。何人集まるかは、そのときにならないとわからないというお気楽方式。集まったのは10人ちょっとだったかな。ふだんオンラインで話している人とでも、ときどきはオフラインで顔を合わせると新しい発見があったりする。昔(10年あまり前)に比べてオフ会の開催はめっきり減ってしまっているが、こういう機会はやはり大事だと思う。

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