ネットワーク vs. ネットワーキング
「IT翻訳者の疑問」というブログの『[Linguistic Reviewerの疑問][カタカナ語]動名詞をそのままカタカナ表記するときのルール』というエントリーで以下の指摘があった。
marketingが「マーケティング」、recordingが「レコーディング」であるように、「ネットワークで結ぶ」という意味のnetworkingは「ネットワーキング」、「メッセージをやりとりする」という意味のmessagingは「メッセージング」と表記すべきだと思うのですが、networking=「ネットワーク」、 messaging=「メッセージ」と表記する人が時々います。組織名などの固有名詞の中の~ingでさえ、ingなしの表記にしたりする人もいるのですが、「ingはカタカナ表記に反映しない」という規則がどこかで定められているのでしょうか。動詞の原形が名詞としても使われる言葉の場合は、ingの部分を省いてしまうと元の名詞と区別がつかなくなってしまうのですが。
基本的にそのとおりだとは思うが、機械的に処理していいものではないとも思う。
たとえば、パソコンを「ネットワークで結ぶ」ための拡張カードは「ネットワークカード」であって「ネットワーキングカード」ではない。
Google検索の結果
"ネットワークカード" 18万
"ネットワーキングカード" 0.01万
"ネットワークカード"が約1800倍と圧倒的である。"ネットワークカード"に対する"ネットワーキングカード"の割合は約0.05%。日本語においては"ネットワークカード"が正しく、"ネットワーキングカード"は誤用であると言っていい割合だろう。少なくとも、自分が訳文を書くときには一般に使用されている用語については保守的にすべきであり、そういう意味で"ネットワークカード"しかあり得ないと判断すべき割合だと思う。
念のため、英語もチェックしてみる。
"network (card|cards)" 887万
"networking (card|cards)" 18.6万
英語も"network card"が約50倍と基本らしいが、日本語ほど圧倒的ではない。また、Sunなど有力企業のサイトが"networking (card|cards)"を使っていたりするので、"networking (card|cards)"を誤用と断じるのはまずいだろう。なお、Sunの日本語ウェブでは「ネットワークカード」と「ネットワーキングカード」、両方が使われている(「ネットワークカード」のほうが多い)。
ざっと見たところ、「ネットワークケーブル」も同じような状況らしい。
こうしてみると、"networking (card|cards)"はやはり"ネットワークカード"を基本にすべきだと思う。
だからといって"networking"を常に「ネットワーク」と訳してよいとはならない。英語において"network"ではなく"networking"としたことに明確な区別がある場合もあるからだ。逆に、明確な区別がある場合があるからといって、"networking"とあったら必ず「ネットワーキング」や「ネットワーク化」「ネットワーク接続する」「ネットワークを構築する」などとすべきともならない。
「"network"と"networking"を明確に区別する意図が書き手にあれば」、その意図が分かるように日本語を書く。書き方としては、日本語における用語の使い方に従う。これしかないと思う。その結果、「ネットワーキング」その他の形式となることが多いとは思うが、場合によっては「ネットワーク」と"ing"を省く形式になることもあるかもしれない(とりあえず、思いつく例はないが、この形式を除外しなければならないと断じるだけの根拠も思いつかない)。
結局、「原文の意図を読みとり、それが、訳文を読んだだけの読者に伝わるように訳文を構築する」しかないのだと思う。
英文に使われている単語や構文に何か明確な意図があるのか、英語の特性として必要だから出てきただけのものなのかを判断し、明確な意図があるならそれが日本語の読者に伝わる日本語にする、明確な意図がないなら(形式の問題なら)無視して日本語の形式に従う日本語にする……それが翻訳なのだと私は思う。
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