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2008年6月 5日 (木)

体育会系翻訳トレーニング論

翻訳とスポーツは似ていると思う。特に、実力をつけるという観点において。

◎頭で理解してもダメ。体に覚えさせる

頭で理解しても体がそのとおりに動かなければどうにもならない。スポーツならこれは自明の理。例によって昔やっていたフィギュアスケートを例にしたい。

フィギュアスケートでは、ひとつのジャンプをくり返しくり返し、練習する。初めておりることができるまで、半年から1年はかかる。難度の高いものなら、何年もかかったりする。この間の練習では、「ここをこのタイミングでこう動かす」などと考えて考えて練習する。先生からは、「もっとああしろ、こうしろ」というアドバイスをもらい、それを実現できるように練習する。

そうこうしているうちに、ふと、成功することがある。それでもまだ、くり返し練習する。初めて成功してから、練習でだいたい成功するようになるまで1年。そこから試合で初めて成功するまで1年。そこからさらに、試合でだいたい成功するようになるまで1年から2年。ちょっと難度の高いものなら、そのくらいかかることが多かった。

先生から「こうやるんだ」と習ったり、できる人のを見てイメージトレーニングをすると、自分にもできる気がする。でも、実際に体を動かしてみるとできない。このように体を使うものは成否がはっきりするので簡単だが、頭を使うものは「わかったつもり」と「身についた」の区別がつきにくいのでやっかいだ。

翻訳は頭を使うものなので、本で読み、頭で理解しただけで、できるようになった気がする。たしかにその瞬間、その例題については「できる」だろう。でも、実際の仕事で、山のような引き出しから必要なもの(技?)をさっと取り出して使うためには、考えているようではダメ。考えなしに頭と指が動くくらいに「身につける」必要がある。

そのためにはトレーニングをくり返す。これしかない。ある一つの技について、考えて考えて、くり返しくり返し、練習するのだ。一通りできるようになっても練習する。「考えればできる」ではダメ。「何も考えなくてもできる」でもダメ。「わけがわからない状況に陥ってもいつの間にかできてしまう」レベルまで練習する。そうでなければ、いつ使うべきかもわからない「技」が、必要なとき、とっさに出てくるはずがない。

◎負荷をかけなければ筋肉はつかない

スポーツでは一定の筋肉がなければどうにもならない。だから、練習の目的のひとつは、必要な筋肉をつけることにある。

筋肉をつけるにはどうするか。今の筋肉では無理な負荷をかけるのだ。筋肉痛になるくらい負荷をかけると、「これでは保たない」と体が判断し、筋繊維をもっと太いものに作りかえてくれる。楽をしていて筋肉など、つくはずがない。

翻訳も同じ。頭の筋肉は、楽をしていてはつかない。今の自分に考えられる限界の一歩先まで考える。知恵熱が出るんじゃないかと思うくらい考える。そういう負荷をかけてはじめて、翻訳に使う筋肉がつくのだと思う。

◎指導者はトレーナー

翻訳を教える、教わるというとき、何が大事になるだろうか。

指導者は翻訳の仕方を教えてくれない、あくまで尻を叩くトレーナーであり、苦しい思いをしてトレーニングを積むのは自分自身だと認識すること、だと私は思う。

翻訳は教えられない、教えてもらえない。できること、してもらえることは、トレーニングの補助まで。道筋を示すこと、示してもらうこと、そして、負荷をかけろ、もっと考えろと強制すること、してもらうこと。翻訳を教える人間ができること、すべきことは、スポーツ選手につくトレーナーと同じなのだ。

いい先生について尻を叩いてもらうことでぐっと伸びる人がいる。同じ先生についても「教えてもらう」つもりでいる人は伸びない。そんなものだと思う。このあたりも、スポーツと同じだ。

なお、ああしろこうしろと直接教えてくれるだけが先生ではない。この人のようになりたいと自分が思う人、ああいう風にしなきゃいけないのかとお手本を示してくれる人、それもまた先生である。具体的な目標があればこそ、苦しいトレーニングに耐えることができるのだから。

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