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2008年6月

2008年6月30日 (月)

文脈に合わせて訳文を組みたてる

ずいぶん前から「翻訳を教える」ことへのお誘いを何度ももらったが、すべて断ってきた。もともと翻訳を習ったことがないこともあり、何を教えたらいいのかがよくわからなかったからだ。ただ、そう言って逃げてばかりではちょっとナニかということで、1年くらい前から、なんどか、セミナーで「翻訳のやり方」を教える経験をしてみた。

そうして翻訳を勉強中の人から駆けだしクラスの人たちの訳文を横一線で見比べてみると、次元が違う断層のようなものがあるのを感じた。

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2008年6月23日 (月)

翻訳フォーラム大オフ2008

先週金曜日、翻訳フォーラムの大オフを久しぶりに開いた。

オフというのはオフラインの略。普段、オンラインでやりとりをしている人々が実際に顔を合わせるオフライン・ミーティングである。

私が独立した10年くらい前は、しょっちゅうミニオフが行われていた。分野やレベル、地域、あるいはとにかく都合がつく人といった感じで誰かが声をかけ、数人が集まってお昼を食べたり飲み会をしたり。人数が増えると取りまとめ役の手間が増えるので、大規模なオフは、この「大オフ」(読み方は「だいおふ」あるいは「おおおふ」)を翻訳フォーラム公式オフとして開いていた。当時、60人~80人が集まったと記憶している。

この大オフ、2005年12月を最後に途切れてしまっていたのだが、今年、ようやく再開。時期は忘年会などが多い年末から半年、ずらして6月とした。

お手伝いを申し出てくださった方々の一部に幹事をお願いして準備を進め、最終的に30人強が集まる会となった。

こうして久々に集まってみると……やはり直接、顔を合わせることも大事だと思う。結局、何をするのも最後は人だから、だろうか。10年前、何かとオフを呼びかけていた人は、みな、しっかりと仕事をしているが、それはけっして偶然ではないと思う。

こういうことをきっかけに、もう少し、いろいろな人が気軽にオフを開くようになればいいのだが、さて、どうなるだろうか。

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2008年6月19日 (木)

中堅はどこへ消えた?

もう、4~5年も前(2003年とか2004年あたり)のことだが……とある翻訳会社の社長さんにお会いしたところ、いわゆる中堅クラスの翻訳者がどんどん下手になって困っているという話があった。以前はけっこうよかったのにここ何年かですっかり下手になってしまった人が多いというのだ。

この社長さんが言われる中堅クラスというのは、料金は高いし忙しくてなかなか仕事を頼めないトップクラスほど上手ではないかもしれないけど、次々と仕事を処理しては、そこそこの料金でそこそこの品質の仕事をあげてくれる人たちを指す。こういう人たちがいてくれないと翻訳会社が成り立たないのだそうだ。

また、別の翻訳会社でトライアルの採点をしている人と話をしたときにも、同じような話を聞いた。そちらの場合は既存の翻訳者がどんどん下手になってるという話ではないが、トライアル受験者の中にいわゆる中堅クラスがほとんど見あたらなくなり、全体的にレベルがかなり下がってしまったというのだ。

前者は、同一人物の力が落ちているという話。なにがしかの理由で、とにかく、アウトプットの品質が落ちた人たちが存在するということだ。

本当の意味で力が落ちているのか、アウトプットが落ちているだけ(手抜きをするようになった)なのかは、これだけでは判断できないが……人間、慣れるのは早いので、手抜きが常態化すればそのレベルのアウトプットしかできなくなるものだ。これを私の仲間内では「手が荒れる」と言う。

後者は、いわゆる「中堅クラス」がトライアルを受けなくなったか、あるいは、「中堅クラス」が少なくなったか、いずれかだろう。

ここから先は私の推測にすぎないが……このふたつの話は関係があると思う。

手を荒れさせず、力を維持あるいは向上させた中堅クラスには、おそらく、力を落とした中堅クラスが担当していた仕事までが回り、忙しくて他社のトライアルを受ける暇などなくなったのではないか。もちろん、十二分な仕事があるのだから、トライアルを受ける必要もないはずだ。

一方、手が荒れた中堅クラスは仕事量が減り、トライアルを受けることが増えると思うが、手が荒れて力を落としたということは、トライアルの評価も中堅の一段下にしかならない。

この両方が相まって「トライアル受験者の中にいわゆる中堅クラスがほとんど見あたらなく」なってしまったのではないかと思う。

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2008年6月16日 (月)

『日本語の作文技術』

『日本語の作文技術』

 

外国語から日本語への翻訳をするなら必読の書。なにせ、この本の「目的はただひとつ、読む側にとってわかりやすい文章を書くこと」というのだから。

いや、読んだだけではダメ。書かれていることを一つずつ、一定期間、練習して身につけるべきだ。

身につけるべき内容は、第一章から第六章まで。あと第八章も、ときどき読み返したほうがいいだろう。その他の章は、翻訳という観点ではあまり役に立たない。原文という形で我々の目の前に提示された段階で決められており、翻訳者の裁量でどうこうできる部分ではないからだ。

そうして練習してみるとまごつくのが第四章にある「テンの打ち方」。

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2008年6月14日 (土)

『実務翻訳を仕事にする』

もうずいぶん前のことなのですが、昔、翻訳フォーラムの「翻訳JOB応援会議室」で連載した『二足の草鞋講座』が新書になりました。一般向けにするために、翻訳業界の基礎知識を書き足すなどの加筆修正を加えたものです。

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2008年6月11日 (水)

運も実力のうち

「運も実力のうち」という言葉がある。私はこれを、(↓)のように表現することが多い。

巡ってきた運をつかむには実力が必要。さらに言えば、運とは呼び込むものであり、どの運を呼び込むのかも実力。よって、「運も実力のうち」なのだ。

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2008年6月 8日 (日)

質と量-翻訳会社のメッセージ

2003年秋にあったJTF翻訳祭のパネルディスカッション、「翻訳は不況か」に私はパネリストとして参加した。

パネルでは、「コスト削減のためにTradosなどを使って再利用率を高め、単価は削減する。この場合、翻訳者は、ツールによる効率向上で処理量が増えるので、稼ぎを確保できる」……そんな話がよく出た。でも、翻訳会社の人たちが翻訳者に対して持つ不満は、「処理量が少ない」ではなく、「質が悪い・翻訳が下手」である。誰に聞いても、「仕事を安心して任せられる翻訳者が足りない」「上手な人はいないか」……そればっかり。つまり、品質の高い翻訳者が一番の願いでありながら、「質より量をこなした人にご褒美をあげます」って言ってるわけだ。これでは、翻訳会社が欲しいと思うような翻訳者が育つわけがない。

パネルの最後に、フロアからの質問や意見を聞いた。この質問・意見のコーナーで、私は、「翻訳会社の立場としてコストダウンに目が行くのはよくわかるが、優秀な翻訳者が育つようなインセンティブが存在するかという視点も持って欲しい。そうしないと、優秀な翻訳者が今よりもっと不足するようになる」といった内容のコメントをした。

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2008年6月 5日 (木)

体育会系翻訳トレーニング論

翻訳とスポーツは似ていると思う。特に、実力をつけるという観点において。

◎頭で理解してもダメ。体に覚えさせる

頭で理解しても体がそのとおりに動かなければどうにもならない。スポーツならこれは自明の理。例によって昔やっていたフィギュアスケートを例にしたい。

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2008年6月 3日 (火)

久しぶりに1単語1時間コース

真円度測定器関連の日英をしていたら、フィルターの位相補償とかカットオフという文脈で「山数」というのが出てきた。

「フィルター "山数" カットオフ」などで検索すると(↓)などがヒット。
http://www.mitutoyo.co.jp/products/keijyou_shinen/menu/shinen.pdf

ギョーカイ的には、それなりに使われている表現らしい。でも、この「山数」、英語でなんというのかがわからない。

「山」だから"mountain"などと安直なことはもちろんできない(翻訳対象文書は展示会で使うパネルらしい。パネルを読んだ人に爆笑されそうだ)。辞書で「山」を引くといろいろな単語が出てくるが、どれを見ても違う気がする。英語側で真円度測定器と掛け合わせてググってみるが、やはり、どれも違うらしい。真円度を測定する対象物の表面にあるでこぼこを意味するようなので、「でこぼこ」とか「おうとつ」とか「粗い」とか、そちらから連想されるもので同じ作業をくり返してみるが、やはり、どれも違うらしい。歯車系の連想ゲームもしてみたが収穫なし。

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2008年6月 1日 (日)

スキルダウンは速く、スキルアップは遅い

スキルアップは薄紙を重ねて塔を作るようなものだと私は思う(『勝ち残る翻訳者-高低二極分化する翻訳マーケットの中で』)。仕事をしながら毎日、毎日、薄い紙を積み上げて行くという感覚だ。1日の終わりに塔が高くなった実感など得られるはずがない。でも高くなったはずと思って毎日を過ごすしかない。実感がないからとつい立ち止まれば、下りのエスカレーターでどんどん落ちてしまうのだから。

スキルダウンのスピードは速い。驚くほど速い。また、スキルダウンに気づいて回復しようとした場合、下降した時間よりも長い時間を必要とすることが多い。

これが私の実感なのだが、データがなく、感覚的な話にしかならないのが困ったものだと思っていた。しかし先日、データのようなものを手に入れた。

千住真理子さんというバイオリニストがおられる。クラシックになんて興味がなくても知ってる人が多いだろう(私もその一人)。

千住さんは、子どものころから18年間、毎日、バイオリンの練習をしたそうだ。バイオリンのない生活など考えられないという日々。あちこちのコンクールで優秀な成績を収め、天才などと騒がれた。ところがあるとき、そのバイオリンを捨てることにしたという。いろいろと大変だったらしい。2年後、とあることをきっかけにバイオリンを再開。2年のブランクなら、倍の4年で元に戻るだろうと思ったそうだ。そして、練習して練習して……結局、元に戻ったと本人が感じるまで7年もの年月がかかったという。

2年分のスキルダウンを回復するのに3倍以上の7年もかかったという話にも驚いたが、それほどの期間、元に戻れない自分に耐えて練習を続けた精神力もすごいと思う。できていたことができないというのは苦しいものだ。その苦しみに耐えて7年も練習を続けるなんて、凡人にはできないだろうと思う。

少なくとも自分にはできないと思う。だから、スキルダウンしそうなことには手を出さない。苦しい思いはしたくないから。

ツールが大好きで自作までしているくせに機械翻訳ソフトや翻訳メモリを使うことには強く反対していたりするが、その理由はこんなところにある。

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