もう、4~5年も前(2003年とか2004年あたり)のことだが……とある翻訳会社の社長さんにお会いしたところ、いわゆる中堅クラスの翻訳者がどんどん下手になって困っているという話があった。以前はけっこうよかったのにここ何年かですっかり下手になってしまった人が多いというのだ。
この社長さんが言われる中堅クラスというのは、料金は高いし忙しくてなかなか仕事を頼めないトップクラスほど上手ではないかもしれないけど、次々と仕事を処理しては、そこそこの料金でそこそこの品質の仕事をあげてくれる人たちを指す。こういう人たちがいてくれないと翻訳会社が成り立たないのだそうだ。
また、別の翻訳会社でトライアルの採点をしている人と話をしたときにも、同じような話を聞いた。そちらの場合は既存の翻訳者がどんどん下手になってるという話ではないが、トライアル受験者の中にいわゆる中堅クラスがほとんど見あたらなくなり、全体的にレベルがかなり下がってしまったというのだ。
前者は、同一人物の力が落ちているという話。なにがしかの理由で、とにかく、アウトプットの品質が落ちた人たちが存在するということだ。
本当の意味で力が落ちているのか、アウトプットが落ちているだけ(手抜きをするようになった)なのかは、これだけでは判断できないが……人間、慣れるのは早いので、手抜きが常態化すればそのレベルのアウトプットしかできなくなるものだ。これを私の仲間内では「手が荒れる」と言う。
後者は、いわゆる「中堅クラス」がトライアルを受けなくなったか、あるいは、「中堅クラス」が少なくなったか、いずれかだろう。
ここから先は私の推測にすぎないが……このふたつの話は関係があると思う。
手を荒れさせず、力を維持あるいは向上させた中堅クラスには、おそらく、力を落とした中堅クラスが担当していた仕事までが回り、忙しくて他社のトライアルを受ける暇などなくなったのではないか。もちろん、十二分な仕事があるのだから、トライアルを受ける必要もないはずだ。
一方、手が荒れた中堅クラスは仕事量が減り、トライアルを受けることが増えると思うが、手が荒れて力を落としたということは、トライアルの評価も中堅の一段下にしかならない。
この両方が相まって「トライアル受験者の中にいわゆる中堅クラスがほとんど見あたらなく」なってしまったのではないかと思う。
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