人は下りのエスカレーターに乗っている
-人は下りのエスカレーターに乗っている-
子どものころ、親によくこう言われた。忘れっぽい私が覚えているのだ、ずいぶんとくり返し言われたのだろう。あるいは、そのとおりだと納得するような体験を何度もしたのか。詳しいことは覚えていない。
とにかく、これは言い得て妙だと思う。言い換えれば「立ち止まることは後退に等しい」。
人は忘れる生き物だ。だから、頭を使わなければ、どんどん忘れて後退していく。
意外に気づかないかもしれないが、体も「忘れる」。私は昔、フィギュアスケートの選手だったが、小さいころは半年しかスケートリンクが営業していない田舎にいた。夏の間、練習しないでいると、体が動きを忘れてしまい、できていたことができなくなってしまう。成長期でもあり、水泳部に入って夏の間も体は動かしていたので、その半年間で体はむしろできていたのに、である。
だから、「人は下りのエスカレーターに乗っている」のだ。周囲が進むのではなく、自分が本当に後退してしまう。
下りのエスカレーターに乗っている自分と違い、翻訳に関係する技術や世の中は日々、進んで行く。言葉も日々、進んで行く。あちらさん、みんなは上りのエスカレーターに乗っているのだ。だから、現状維持でいいやと思った瞬間、下りのエスカレーターに乗った自分と周囲はすさまじい相対速度で離れて行く。ゆっくり歩いてのぼっても、下手すれば上りのエスカレーターには置いて行かれる。つまりついていくだけでもかなりの努力が必要。その状況で相対的に先に進むのであれば、さらに多くの努力が必要になるし、必ずしも進めるわけではないとなる。
| 固定リンク
「翻訳-スキルアップ(総論)」カテゴリの記事
- 翻訳の方向性について(2018.06.07)
- 機械翻訳の懐疑論者は大きな見落としをしているのか~見落としの見落とし~(2014.06.19)
- 不実な美女か貞淑な醜女か(2012.10.05)
- 翻訳作業時間モデル(2009.11.07)
- 翻訳は何から学ぶべきか(2011.06.29)
コメント
「立ち止まることは後退に等しい」言い得て妙ですね。
コンピューター・プログラムでも同様のことを感じます。一度作ったものに何も手を加えないと壊れていくのです。ハードウェアやネットワークや利用状況は変わっていくからです。使う人から見て現状維持にするには、手を加え続けなければならないのです。
投稿: himazu | 2008年5月27日 (火) 06時28分
人の世は進んでいくものですけど、中でもコンピューターの世界は秒進分歩ですから、強く感じられるでしょうね。
投稿: Buckeye | 2008年5月27日 (火) 12時36分