翻訳者の収入分析-7.分析詳細(安値受注について)
分析は主に2002年度版(2000年のデータ)について行います。母数が一番多く、その分、代表性が高いと思われるからです。
◎安値受注について
よく、不当に安売りする翻訳者(ここには「翻訳会社」と入ることもある)がいるからマーケット全体が下がるという話が出る。「不当廉売」などと言われたりするものだ。その点について、少し考えてみよう。
結論としては、マーケットという観点からはそれほど影響力は大きくない、というところだと思う。
英日の単価として400円とか500円という数字を聞くことがある。これで年間100万をたたきだそうと思うと、500円/仕上がり400字でも年産2,000枚、月20日で8枚/日強となる。この枚数はあくまで平均であり、こういう単価の人のスケジュールがきれいに埋まるとは考えにくいので、トップスピードではこの倍くらい(16枚/日)やらないと平均8枚/日に達しないだろう。ということは、「不当廉売」は100万以下の年収階級だけに含まれると考えてよい。
100万以下は、売上ベースで3%、枚数ベースで5%にすぎない。しかも、この中には仕事自体はきちんとしている二足組もいれば(ここは兼業率が69%と高い)、低いながらも相場レートで仕事をしている駆け出し組などもかなりいるはず。その上のマーケットとの整合性を考えても、駆け出し相場で仕事をしている人のほうが多いはずだと思う。また、単価が安いと金額ベースのシェアは低く出るので、マーケット規模(金額ベース)では、不当に安い価格の案件はそうとうに小さいことになる。データがないのであてずっぽうで推測するしかないのだが、どんなに多くても金額ベースで全体の1%にも満たないくらいだろう。つまり、マーケットという観点からは、不当廉売に全体を引き下げるほどの力があるとは言えないと思う。
そういうマーケットはなくなったほうがいいとは思う。でも、なくすことは現実問題として不可能なので、その中でどうするのかを考えて行動しなければならないということだろう。
ただしこの分析には不安材料がある。この翻訳者アンケートに答える人たちの中に400円、500円で仕事をしている、あるいはそんな値段でもいいから仕事をしてみたいともがいている人がいるのかと言われると……あまりいそうにないと思う点だ。つまり、アンケート外に巨大な超安値マーケットが隠れているという可能性も否定はしきれない。そこまでのことはないと思うが。
安値受注としてよくやり玉にあげられるもう一群が、扶養の範囲におさえて働くいわゆる「主婦層」。こちらも基本的に100万以下の階層に所属しているはずなので、前項のように、マーケット全体に占める割合が小さく、全体に大きな影響を与えるほどの力はないと思う。
では、マーケットの下押し圧力はどこから来ているのか……アンケートデータからわかることは、残念ながら、ない。
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