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2005年7月

2005年7月27日 (水)

誤解されやすい翻訳業界の常識-訳文に、翻訳者の解釈を入れてはならない

翻訳者は原文の著者と訳文の読者をつなぐ無色透明な存在であり、訳文に、翻訳者の解釈を入れてはならないと言われる。

これは、ある意味、正しいと思う。ただし、正確に書けば↓になるという意味でだが。

積極的に解釈することによってのみ、「翻訳者の解釈が入らない訳文」ができる

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2005年7月24日 (日)

誤訳とは?

誤訳というのは、我々職業翻訳者にとって一番こわいことだ。これだけは避けたいと思うが、そこは人間がすること、完全に避けることはできない。だから、実力をつけましょうねって話になるのが普通なのだが……そもそも誤訳とはなんだろうか。

翻訳者は、原著者の代弁者として、原著者の意図が読者に正しく伝わるように橋渡しをすることが仕事だ。言い換えれば、単語の対応がどうであれ、見た目がどうであれ、原著者の意図が読者に正しく伝われば、結果として、翻訳者としての仕事がきちんとできたことになる。逆に言えば、どんなに「正しく」訳されていようと、訳文の読者が原著者の意図を正しく読み取れなかったら……その読者にとっては「誤訳」に等しい。

「おいおい、読み手の力不足は翻訳者の責任じゃないぞ」と思うひともいるだろう。そのとおりではある。それでもなお、翻訳者に責任の一端があると私は思う。

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2005年7月22日 (金)

プロフィール

■名前

本  名:井口耕二(いのくち・こうじ)
ハンドル:Buckeye(ばっかい)

このサイトでも使っている"Buckeye"というハンドルネームは、企業派遣で留学した米国オハイオ州の州木、Buckeye(セイヨウトチノキ)に由来します。@niftyにあった翻訳フォーラムに参加したとき以来、ずっとこのハンドルで通しています。

■仕事関係

子どもが生まれたのを機にサラリーマンから二足のわらじを経由し、フリーランスの翻訳者に転身しました。専業になったのは1998年1月、38歳のときです。当初、名刺やメールのシグニチャには、

  技術・実務翻訳
  テクニカルライティング

と書いていました。これは、「テクニカルライティング的な考えを取り入れ、単なる翻訳から一歩踏み込んだ翻訳を提供する」という自分の想いを表したものです。いわゆるテクニカルライティングを仕事としているわけではありません。ちなみに、最近は書籍が中心なので、「翻訳者(出版・実務)」という書き方にしています。

独立当初は産業系の翻訳でしたが、2005年くらいからノンフィクション系の書籍も手がけるようになりました。特に2011年の『スティーブ・ジョブズ』(講談社)以降は書籍の仕事がたくさん舞いこむようになり、いまは、9割方が書籍になっています。

産業系は、ソースクライアントからの直請けをほそぼそとやっています。昔は営業活動もずいぶんしたのですが、いまは、書籍100%でもいいやと思っているので、依頼されればやるけれどもこちらから営業はかけない、それでも続くクライアントや、あるいは新たに取引が始まるところがあればというくらいの気持ちでいます。

翻訳会社経由の仕事もしたくないわけではありませんし、JTFの名簿などから新規の打診をいただくこともあるのですが、残念ながら、多くの場合、お値段が折りあわずにお断りする結果になってしまっています。

取り扱う分野としては、エネルギー利用技術の研究職だったこともあり、エネルギーと環境がいちばんの専門となります。ただ、もともとの専門のプラント関係というのがいろいろな技術の集合だということもあり、電気・電子や機械、計測機器、化学なども守備範囲です。パソコン関係は趣味なので、ソフトウェアにもハードウェアにも対応しています。会社員時代の最後はビジネス部門にいたこともあり、ビジネス系のものもよくやります。

言語は英日・日英。日英は疲れが激しいこともあり、正直なところ、できればやりたくないので、料金設定をかなり高めにしています。そこまでの価値を私の日英訳に見いだしてくれるお客さんしか私に日英を発注しない→日英が減って英日中心になるということを狙っているわけです。それでも、英日:日英が70:30から50:50で狙いどおりになっているのかなっていないのか、よくわからない時期が長かったのですが、最近はほぼ全量和訳に落ち着いています。

自分が訳す以外の仕事としては、雑誌やメルマガに記事を書いたりもしています。一応、ライター稼業もしているというところでしょうか。著書も、単著の『実務翻訳を仕事にする』(大昔、@nifty翻訳フォーラムに連載した「二足のわらじ講座」を書籍化したもの)、共著の『できる翻訳者になるために プロフェッショナル4人が本気で教える 翻訳のレッスン』と2冊があります。

業界誌などへの寄稿は、いくらなんでも、そろそろ、世代交代すべきだろうと考えていて、今後は控えるつもりです。

また、2008年4月からしばらくISSという翻訳学校の実践実務科と本科で教えるという経験もしました。実践実務科はOJTを中心とした少人数クラスで、対象は翻訳者として独立一歩前の人となっています。そのため、教えるというよりもトレーナー的な立場でクラスにかかわるようにしました。それにしても……オフラインのクラスで教えるというのは、時間の制約とか、いろいろときびしいものがありますね。私は生活時間が極端な朝型なので。

■関与しているところ

お金になる仕事以外では、翻訳フォーラムという翻訳者の情報交換・相互研鑽の場を友人と主宰しています。

翻訳フォーラム
http://www.maruo.co.jp/honyaku/

2002年から2016年まで日本翻訳連盟(JTF)の理事もしていました。2006年から2016年までは常務理事でした。
http://www.jtf.jp/

JTF理事をしていたあいだに、一時期は日本SOHOセンター(JSC)の副理事長もしていた時期があるのですが、さすがに手を広げすぎで回りきれず、早々に退任しました。
http://www.sohocenter.org/

■関連リンク

Buckeye the Translator (昔作ったウェブサイト)……このブログと同じ名前です。

上記サイトで、翻訳作業を支援するツールやマクロを公開しています。
Software Library  

■バックグラウンド

大学(日本)も大学院(企業派遣で米国)も、化学工学というプラント系のところでした。会社員時代はエネルギー利用技術の研究職をしていたので、プラント、中でもエネルギー利用技術がいちばんの核になります。

一方、子どものころは、趣味が服着て歩いていると言われるほど、いろいろとやってました。高校時代など、部活動だけでも、フィギュアスケート、水泳、アマチュア無線、英語と4つ(^^;) それ以外に、夏には山歩きに行ってましたし。大学に入ってからは写真にバイク・ツーリングまで加わりさらにはちゃめちゃ状態に。プログラミングも、BASICからPascal系言語、FORTRAN、COBOLと、バイトを含めてずいぶんとやりました。スケート引退後はスキーにはまった時期も。あと、木工・エレクトロニクス(最初は真空管だった)なんかのDIYも小学生時代からず~っと続いてますね。

勉強以外のことばかり熱心にやっていたからでしょう、大学卒業時、ふつうの企業(エネルギー会社)に就職したらみんなにびっくりされてしまいました。スケートの友だちは私はスケートで食べていくのだろうと思っていたそうですし、大学の友だちはソフトウェアの会社に就職するんだろうと思っていたそうです。結局、会社を辞めて不自由業(^^;)に転身しちゃった遠因に、そのあたりがあったのかもしれませんけどね。

フィギュアスケートは、15年近くも選手生活をしたので、私の考え方なりモノゴトのとらえ方なりに強い影響を与えているようです。要するに、根が「体育会系」なんだと言ってもいいかもしれません。また、単なる体育会系ではなく、採点競技だったことから、評価があるようなないような翻訳と似ている面が多く、今の仕事にも役立っているように感じます。

(2020年9月加筆修正)

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2005年7月20日 (水)

読むスピードで翻訳できれば最高の品質が得られる

一般には、翻訳の速度と品質は反比例するものと言われているようです。でも、私は、あえて、

「読むスピードで翻訳できれば最高の品質が得られる」

と言いたい。いや、ホントにできるって思ってるわけじゃありませんよ、もちろん。もうちょっとわかりやすく書くなら

「翻訳は速度が速いほうが品質が高い」

となりますか。

そんなばかな、と思うでしょ? 「時間がないから(スピードを上げざるを得なくて)品質が低下する」っていうのは、これはもう、常識のように言われていますものね。

そうでもないんですよ。だって、翻訳をはじめて下手なうちは遅いけど、上手になるにつれスピードも上がってくるっていうのはよく聞く話。タイプに慣れたとかアレコレ工夫したからっていうのを差し引いても、あきらかに、訳文を考えるスピードがあがってくるはずです。そりゃまあ、スピードだけあがって、うまくならない人もいますが、それはまた別の話なので横に置いときましょう。

このあたりがどうも矛盾しているようだと思う人は、実はけっこう多く、「おしゃべりな翻訳者」というブログの「翻訳速度と品質」でも↓のように書かれています。

>> うまい(高品質な)翻訳者は、ある程度という条件付きではありますが、速いと思います。

■翻訳の速度とは?

このあたり、話がややこしくなっている理由は、「翻訳の速度」というものについて、ふたつある尺度がごっちゃになってるからです。

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2005年7月15日 (金)

翻訳の品質-多変量翻訳評価関数の最大化

■翻訳品質の評価方法

翻訳に品質の良し悪しがあるのは確かだけど、それを客観的に評価するのは難しい。それどころか、自分自身の主観的な評価としても、良し悪しを判断するのは難しい。

良し悪しの判断が難しい最大の理由は、評価軸が山のようにあるからだと私は思う。短距離走のように評価軸が速度だけなら、評価も簡単だし評価をあげる努力の方向も簡単にわかる(実現できるかどうかは別問題)。ところが翻訳は、評価軸が山のようにあり、しかも、相反する部分を持つ評価軸が多く、ひとつの評価軸における評価が最高のものが総合的な評価が最高になるとは限らない。

結局、↓の問題になる。

  • どの評価軸を用いるのか(人によってタイプも数も違う)
  • どこでどのように評価軸間のバランスをとるのか
     (バランスの判断も人によって異なる)

■多変量翻訳評価関数の最大化

翻訳というものは、「多変量翻訳評価関数の最大化をめざす」ものだと私は理解している。多変量評価関数というのは、数多くのパラメーターを持つ評価関数、つまり、パラメーターの値を入れると評価結果が得られる関数のこと。この評価結果が翻訳の品質なのだから、評価結果が最大になるパラメーター値の組み合わせを見つければいい。

「見つければいい」というが、これが、前述のように容易ではない。容易ではない理由を、単純化して考えてみよう。

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