翻訳-雑記

2024年6月12日 (水)

翻訳の才能とはなんなのだろうか(その2)

前投稿「翻訳の才能とはなんなのだろうか」の続きです。

いまさらながら辞書を引いてみました。

(三省堂国語辞典)ものごとをりっぱにやりぬくための、頭のはたらきや能力。
(新明解)物事を理解して処理する、頭の働きと能力。
(大辞林)物事をうまくなしとげるすぐれた能力。技術・学問・芸能などについての素質や能力。

才能というのは現在の能力というより生まれもった才を指すものだと思っていたのですが、このあたりの語釈は「いま現在の能力」と言いたげなものとなっています(「素質」の一言がある分、大辞林は少し違う)。

「いま現在の能力」なのであれば、それこそ、上手下手と才能の有無が基本的に対応することになります。上手下手、能力、才能が入れ替え可能な同義語に近いと言ってもいいでしょう。

そうなんでしょうか。

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2024年3月29日 (金)

翻訳の才能とはなんなのだろうか

翻訳について、「才能」という言葉が使われることがわりとよくあります。でも、翻訳の才能とはなんなのでしょうか。なにをもって才能と言うのでしょうか。

このあたり、考えがまとまっているわけではなく、結論めいたものは提出できないのですが、ほかの方々がこのあたりについて考えるきっかけになればと思い、この記事を書くことにしました。

翻訳の才能は、才能ある人の翻訳は上手だという感じで使われることが多いように思います。逆に、翻訳が上手な人は才能があると言われがちな気がします。

じゃあ、上手下手は才能で決まるのでしょうか。才能ある人は最初からうまいのでしょうか。いま、下手な人は才能がなく、今後、なにをしてもうまくなれないのでしょうか。

そんなことはないはずです。努力しなければ才能があっても開花しません。だから、最初はみんな下手くそです(少なくとも、その後努力して伸びた後に比べれば相対的に下手)。

『翻訳とは何か 職業としての翻訳』に、山岡洋一さんは、翻訳に取り組んでいると「小さな技術の組み合わせによって訳文の九十パーセント以上が書けてしまうと思えるほどである」と書かれています。「翻訳にあたって自分に何かが不足していることを思い知らされたとき、その何かを『能力』だと考えていては、親を恨むか、DNA療法の飛躍的な進歩に期待をかけるしかなくなる」「不足しているのは、たいがいの場合、もっと具体的な何かである」、必要なのは「技術」であるとも。

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2022年10月 2日 (日)

ビジネス vs. 職人仕事

ビジネス vs. 職人仕事

ずいぶん前に書いたのに、投稿を忘れていたようですm(._.)m

■寿司職人が何年も修行するのは、本当にバカな行為なのか

なる記事をみかけました。だいぶ前に書かれたものなのですが。

我々の仕事も同じだよなと思いました。っていうか、昔から、私は、「我々は職人ですから」とよく言ってきています。職人って、どんな仕事でも同じなのではないかと。

ギリギリ客に出せるレベルなら、それなりの手間暇で到達できます(全員とは言わない)。そこまで効率的に到達する方法もそれなりにあるでしょう。でも、そこからもう一歩、二歩、三歩先のレベルまで行きたければ、かなり長い時間をかけてさまざまな努力をしなければなりません。

寿司職人と違う点は、製品を作るときにも同じことが言えるってことと(寿司職人の場合、少なくとも客前での仕事としては、上手な人のほうが時間がかかるってことはない、はず)、そこでどういうやり方をしているかでさらに伸びたり、逆に手が荒れて力が落ちたりするってことでしょうか。

ギリギリ客に出せる質でよければやり方はいろいろあります。いわゆる「効率的に仕事をする」という方法も含めて。でも、そこからもう一歩、二歩、三歩、先に行こうとすればとたんに非効率になってしまいます。「ビジネス」として考えるなら効率を最優先に追求するのもアリでしょうし、たぶん、短期的にはそのほうが儲かるでしょう。

でも、そういうやり方で、一生、仕事をしていくことができるのでしょうか? 職人は、自分の腕一本で生きていかなければならない世界なのに。モチベーションなど自分側の問題もあるはずだし、仕事環境の変化など外部の問題もあるはずなのに。ついでに言えば、もう一歩、二歩、三歩、先に行けば、単価を上げたり仕事を選んだりできるようになるはずだし(少なくとも私はそういう例を掃いて捨てるほど見てきた)、そうなっている人は業界内で「あの人はいいよね」と言われることが多いのに。

基本的に、翻訳会社はビジネスの世界、我々現場は職人の世界。

翻訳業界を見る際には、そういう視点も加味する必要があると思います。

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2019年1月24日 (木)

ゲラ読みに使う道具

ゲラ読みは、基本、食卓でやってます。

■こんな感じ

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ゲラを置いている台は(↓)です。

ゲラのサイズは、自分でプリントアウトしたものならA4、送られてくるものはA4かもうちょっと大きなB4。上に写っているのはB4で、このサイズだと上端がちょっとはみ出てしまいますが、実用上、これで困ったことはありません。

ゲラを机に直接置くとどうしても前かがみになり、何日か続けて日がな一日ゲラ読みしていると、背中の上半分から肩がバリバリになります。このように向こう端を少し持ち上げてやると、それがすごく楽になります。

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2013年11月13日 (水)

ノンフィクション出版翻訳忘年会の参加資格

先日、案内メールを発送したノンフィクション出版翻訳忘年会ですが、翻訳者については「実力と実績のある翻訳家」というあいまいな表現になっています。そのため、「~という状況なのですが、これで参加資格はあるでしょうか」などと聞かれることがけっこうあります。

回答としていろいろなことを言ってきました……違和感を覚えつつ。

なんといっても基準があいまいですからね。正直なところ、幹事間でも明確なコンセンサスがなく、人によって考えが異なっていたりもします。それはまずかろうとなり、どういう基準にするのがいいのか、幹事間で話し合ったこともあります。そのとき、私は、いっそのこと、訳書X冊以上などの外形的基準を導入したらという立場を取りました……これまた違和感を覚えつつ、でしたが。

実はこの会は、もともと、2011年に亡くなった山岡洋一さんが中心となっていたものなのですが、「実力と実績のある翻訳家」という表現にされたとき、山岡さんの頭のなかには外形的な基準があったそうです(この話は、亡くなる前年にうかがいました)。であれば、外形的な基準を表に出してしまうほうが参加者は迷わなくてすみますし、幹事の負担も減るはずだと思ったのです。

外形基準を決めたら決めたでややこしい面もあるんですけどね。「訳書X冊以上」としたらしたで共訳書は数えるのか、共訳書を数えるとき人数に上限は設けるのか(訳者がずらりと10人も並ぶようなものもありますからね)、監訳者の名前で出ていて監訳者あとがきに「翻訳は~さんに頼みました」とクレジットされているものは数えるのか、下訳は数えるのか、商業出版ではなく自費出版のものは数えるのか……ざっと考えても、このくらいは問題が出てきます。

いろいろと議論がありましたが、最終的には外形基準の導入は見送りとなり、今年も、「実力と実績のある翻訳家」という表現のママになったわけです。

そして、先週の土曜日に行われた洋書の森のセミナーと懇親会に参加したとき、ボランティアスタッフをしているという方からも冒頭の質問をされました。いつもの違和感を感じつつ、なんて答えようかなと考えたとき、息子が通っていた小学校での出来事を思い出しました。

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2012年9月25日 (火)

出光興産先進技術研究所で講演会

先日、出光興産の先進技術研究所で講演会をしてきました。私が出光に入社するきっかけとなった先輩が執行役員として所長をしておられ、声をかけていただいたので。

■背景は新入社員当時の集合写真。2列目右から5人目が私。

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翻訳家井口耕二氏を招きグローバルセミナーを開催

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2011年11月22日 (火)

『翻訳通信』サイトの復活

8月に亡くなった山岡洋一さんが発行されていた『翻訳通信』、バックナンバーが公開されていたサイトが先日、なくなってしまいました。幸い、山岡さんのパソコンに元データが残っていたこともあり、新しくURLを確保して(↓)で公開されることになりました。

http://www.honyaku-tsushin.net/

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2011年10月19日 (水)

『スティーブ・ジョブズ』翻訳作業完了

最後になって刊行日が4週間くり上がり、怒濤の進行となりましたが、なんとか、『スティーブ・ジョブズ』上下巻の翻訳作業は完了しました。10月25日発売予定の上巻はすでに校了して印刷・製本中ですし、11月2日発売予定の下巻もそろそろ校了となるはずです。

私のほうの作業は、赤を入れた下巻ゲラを講談社さんにお渡しした13日でほぼ終了。そのあとは、編集さんから戻ってくる確認点などへの対応程度となりました。

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2011年9月 2日 (金)

山岡洋一さんのお通夜・告別式

先日急逝されてしまった山岡さんのお通夜と告別式に行ってきました。

お通夜があった8月26日は大雨で、電車のダイヤが乱れまくりとなったほか、駅からのタクシーもすごく長い行列があったりして、結局、現地到着はお通夜がそろそろ終わろうかという時間になってしまいました。お通夜や告別式のお手伝いをされていたダイヤモンド社の編集さんが「山岡さん、なにをそんなに怒ってんだよって感じの雨ですね」と言われていましたが、本当にそんな感じの大雨でした。

部屋のすぐ外には、70冊近い山岡さんの訳書などがずらりと並んでいました。(お通夜や告別式がおこなわれたお部屋は写真を撮るのがはばかられたので、部屋の外の写真しかありません)

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2011年8月20日 (土)

【訃報】-山岡洋一さん

ビジネス系の出版翻訳で有名な山岡洋一さんが昨夜、心筋梗塞で急逝されたそうです。享年62歳。

私が知ったのは、つい先日、山岡さんの次の本が校了となったという編集者の方のツイッターでしたが、その後、山岡さんと関係が深い方々に連絡してみたところ、ご家族から連絡をうけたという方がおられました。とても残念なのですが、本当になくなってしまわれたようです。

実力派でテキトーな翻訳をきらい、このブログのカラムで紹介している『翻訳とは何か―職業としての翻訳』など、翻訳を支えているのは翻訳者だと舌鋒鋭く論を展開されるので、文章を読んでいるとどんな怖い人かと思うのですが、実際に会ってみると、はにかんだような笑い方が印象的で、むしろ人前にあまり出たがらない、そんな方でした。

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