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2010年10月10日 (日)

ワークライフバランス

ちょっといろいろあって、この週末、大宮で行われたワークライフバランスについてのセミナーで話をしてきました。ワークライフバランスという意味で我が家はかなり変わった経歴があるので、そのあたりの話をというリクエストをいただいたので。まあ、我が家的には、あくまで、そのときそのとき、選べる範囲でベストと思われる選択をしてきただけで、特に主義主張があったわけでもなんでもないのですが……

セミナー終了後、コーディネーターの方と話をしていたら、その前の週のセミナーでは(私が話したのは3回シリーズの2回目)、「職場は男の戦場。子育てをしながらできるようなところではないし、それを無理にやらせるのはよくない。だから、子育ては専業主婦に任せるのがいい」という意見がとある男性から出たと聞きました。

この男性、今回はお休みでした。2回目はお休みが多かったようです。この週末は3連休でしたしね。

この考えこそ、昔、夫婦で書いた少子化問題に関する懸賞論文で最優秀賞をいただいた「『弱さ』を受け入れる社会を目指して」(公共政策調査会・読売新聞社)において「変えるべきだ」としたものです。

ちなみにこの論文、概要は次のようなものです。

上記のような考え方(社会的弱者を生産の現場から遠ざけることで生産性を高めようという考え方)は、戦後日本の復興においてとてもよく機能した。しかし最近は、それが巡り巡って少子化を招き、ン十年の単位で労働人口の減少→生産性の低下につながる状況となった、赤ん坊・老人・病気など、人生の中には一定期間、「弱い」時期が必ず存在するわけで、そのような弱者を切り捨てるのではなく受け入れる社会、弱い人(赤ん坊・老人)の世話をして準弱者となった人を切り捨てるのではなく受け入れる社会にしなければならない。根本が変わらないかぎり、小手先の支援だけで少子化は止まらない。

とはいえ、考え方はいろいろあるほうがいいので、その方がそういう意見ならそれはそれなのだと思います。ただ、ふと、関係者にとってはどちらが幸せなんだろうと思ってしまいました。

(↓)の2パターンについてシミュレーションしてみます。

  • 専業主婦が子育てして、ダンナは外で働く
  • 共働きで子育ては分業(子どもふたり、3歳違い)

共働きで子育てを分業していれば、残業はしにくいし休みも多くなります。子どもが生まれたら育児休業も取るでしょう。子どもひとりにつき、夫婦合計で2年ずつ取ったとします。また、子どもが小さいうちは病気が多く、病院がよいで休まざるをえないことが多いはずです。1人の有給では足りないとよく言われるので、子どもが3歳まで年間40日休むとします。3歳違いなら、6年間。結局、ほぼ年間労働日数の240日休むことになります。また、その後もまだそれなりに病気がありますし、学校関係で休むこともあります。その分、全部合計した日をえいやっと1年相当としましょう。

結局、6年間、休むことになります。夫婦ふたりで6年間休む=ひとり3年ずつ休む、と考えていいでしょう。30歳で結婚して60歳まで会社で働くとして、1割が消えます。

また、共働き家庭は夫婦とも残業なしと仮定しましょう。また、働き方の基準として、残業なしでフルに働く人を1人前とします。

そのとき、この夫婦、ふたりの働きは(↓)となります。

0.9人前×2=1.8人前

仮に、アウトプットが労働時間に比例するとすると……専業主婦家庭のダンナがこれに匹敵するだけ働こうと思ったら、(9時5時の7時間労働×0.8)で5.6時間、30年間毎日、残業しなければなりません。月間100時間をゆうに超えるレベルです。ちなみに月間100時間の残業というのは、過労死認定の基準です。

過労死したんじゃたまらないでしょうから、月間60時間に抑えましょうか。1日約3時間として、(↓)の働きです。

1.4人前

雇用者側から見ると、0.9人前しか働けない共働き夫婦には、0.9人前ずつの給与を払えば特に問題はないはずです(このくらいの調整は査定でどうにでもなります)。それに対し、専業主婦家庭の1.4人前働いている人は、1.4人前の給与というわけにはいきません。残業は月間60時間まで25%増し(ちなみにそれを超えると50%増し)。つまり、1.5人前の給与を支払う必要があります。雇用者にとっては、むしろ、共働き家庭のほうがありがたいという側面もあるわけです。

家庭側から見ると、共働き家庭は1.8人前の世帯収入があるのに対し、専業主婦家庭は1.5人前。また、暮らしとしては、共働き家庭は30年間、定時退社ですから、遅めとはいえ、一家揃って夕食が食べられます。専業主婦家庭は30年間、毎日3時間の残業ですから、退社が8時。子どもが小さいうちは寝顔しか見られないという生活が続きますし、まして、父親が夕食にいることはありえません。

さてさて、どちらの生活が関係者にとって幸せなのでしょうか。もちろん、幸せの基準もひとそれぞれなので、必ずどちらが、とはなりませんけどね。

ところで、ここまで読んでこられて「何かおかしい」と思われた方はおられないでしょうか。有給はどうなるのか、と。

実はここまで、共働き家庭にかなり不利な計算をしています。夫婦ふたりで年間40日休むのであれば、ぎりぎり、有給で賄えてしまいます。つまり、消えるとした6年間は、実はある意味、ハナから存在しない6年間です。いや、どうせ有給は消化できないから……と言う人には、じゃあ、30年間、1日も有給をとらずにゆくのですかと聞いてみたいですね。前述の30年間、毎日3時間という残業は、有給なしが前提です。休むなら、その分、残業時間を長くしないと上記1.4人分の仕事ができないことになります。

あと、残業の問題もあります。夫婦とも働いており、夫婦が協力するのであれば、適宜、交代で残業することも不可能ではありません。子どもが小さいウチは、家でやらなければならないことが増える分、フルに、とはゆきませんが。でも、子どもが大きくなれば専業主婦家庭と変わらないことになります。人数がふたりいる分、その合計ではむしろ長時間労働が可能だという考え方もあります。

もう一点。労働生産性の問題もあります。上記の計算はアウトプットが時間に比例するとしたわけですが、実は、労働時間は短い方が単位時間当たりの生産性は高いことが多いのです。

最後に、専業主婦家庭側に有利な点をひとつ。会社としては、ひとりがふたりになると、給与以外でコストが増えます。備品も倍になりますし、机を置くスペース(事務所の家賃として出てゆく)も増えます。

このあたりを勘案すると、雇用者にとってはどちらがいいか微妙なところ、働く人の側からすると、共働きで子育てを分業しても、専業主婦家庭のダンナに意外なほど肉薄する働きができる。そんな感じでしょうか。

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