2021年2月17日 (水)

『三行で撃つ』

「<善く、生きる>ための文章塾」と副題がついていることからもわかるように、文章の書き方の本です。対象読者として想定されているのは、一番にはプロのライターだけれど、ふつうに文章を書く人全般も視野に入っている、という感じです。

話はおもしろい。文章を書く人はこういうことも考えたりするんだなぁと勉強にもなります。

でも、翻訳に役立つかと言われると、微妙な気がします。

なにをどう切り取ってどう表現するのか。そこにかなりの比重が置かれているからです。たしかに、プロのライターをめざすならそこは大事。一番大事と言ってもいいかもしれません。でも、我々翻訳者の場合、そこは、原著者がすでにやってしまっている部分で、我々が手を出してはならないとも言える部分だったりします。

ライターさんは内容で勝負、我々は表現のみで勝負、ですからね。

こういうことを考えて原稿を書いてるんだと知れば訳文も変わる、という意味においては読んで損のない話ですし、だから、今回の記事も、一応は「お勧めする」側に入れているわけですが。

表現についても書かれています。書かれていますが、これまた、みずから書く人向けであり、我々は取り扱い注意かなと思うところもあったりします。

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2020年12月19日 (土)

「訳者あとがき」について

ふとしたことから「訳者あとがき」について人と話をする機会があり、そういえば、この話、あちこちでしてきているのにブログに書いていなかったなと気づいたので書いておきます。

ページ数やスケジュールの問題で訳者あとがきなしとなることも少なくないのですが、書いてほしいと編集さんに頼まれ、かつ、書く余裕があれば、書くようにしています。

書くときの方針は、「読者のために」です。

あとがきの場合、読者のためにといってもいろいろとありえます。私は、「この訳書を読もうという気になって、書棚からレジまで持って行ってもらえるように」ということのみを考えて書いています。

書籍が続くようになった2冊目で、最初に書いた訳者あとがきが、本文を読んでいないとわけがわからないもので(逆に、本文を読んでから読むならあれはいいあとがきだといまでも思うんですが)、編集さんから書き直しを求められました。「目次を見て、本文をぱらぱらとめくり、あとがきを読んで、買うかやめるかを決める読者がそれなりにいる。そういう人も念頭に置いてほしい」と言われて。

目から鱗でした。私にとってあとがきは、必ず「あと」に読むものでしたから。

以来、本文を読んでいない人に「これはおもしろそうだ」と思ってもらうことを目標に訳者あとがきを書くようにしています(自分がおもしろいと思っている本を読んでもらうのは、読者のためになることだと思うので)。

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2020年10月 1日 (木)

『Coders(コーダーズ) 凄腕ソフトウェア開発者が新しい世界をビルドする』

コードとかプログラムとか言われるものと無縁の生活をしている人はほとんどいないでしょう。職場でコンピューターを使う人や自宅にコンピューターを持っていて使っている人も多いですし、スマホでLineやFacebookを使っている人はもっと多いでしょう。いまだにガラケーという人も、ショートメッセージなどは使っているはずです。ゲーム機でゲームを楽しむのも、そのゲーム機に対応したコードがあるからできることです。

便利なアプリやおもしろいゲームにはまり、気づいたらびっくりするほどの時間を取られていた、なんてこともよくあります。ある意味、我々の生活は、いま、コードに支配されていると言ってもいいでしょう。

本書は、そのコード、コンピューターのソフトウェアを作る人々(コーダー)に焦点を当てたものです。

■Coders(コーダーズ)

話は、いまのようなデジタル式コンピューターが登場したころに始まり、どういう人がなぜコーダーになり、どうコーダーの世界を作ってきたのか、基本的に時系列で紹介されていきます。

当初、女性が中心だったのはなぜなのか。それがなぜ、どのような経緯で男性中心になったのか。ソフトウェアは規制と相性が悪いように見えるが、どういう経緯でそうなったのか。どういう人がコーダーに向くのか。実際、どういう人がコーダーになっているのか。ソフトウェア業界は能力主義で、実力だけが物を言う世界だと言われているが、それは本当なのか。などなど。

当然、たくさんのコーダーが登場します。こう言うとなんですが、わりと普通っぽい人から、一癖どころか二癖も三癖もあるような人まで。

そういう仕事をしている人や、そういう人が身近にいる人が読めば、ああ~、こういう人いるいる、こういうことあるあると思ってしまうこと、まちがいありません。

私自身、学生時代はプログラミングのバイトをしていて(某上場企業のシステム開発に携わったり)、ソフトウェア会社に就職するのだと学科の友だちに思われていましたし、いまも、翻訳に使うツール(それなり規模のソフトウェアです)を作って公開しているくらいなので、自分にも当てはまる話もいろいろと出てきて、楽しく仕事をすることができました。

ちなみに、翻訳者っていうのも、コーダーにわりと近い人種な気がします(^^;)

また、帯にも書かれていますが、いま、ヨノナカに広く提供されるサービスはコードという形を取ることが増えています。これをどういう人が作っているのか、そのせいでどういうサービスになりがちであるのか、そのあたりを知らなければビジネスが成り立たないとか、そのあたりを知っているか否かでビジネスの成否が分かれるといったことも少なくないでしょう。

■帯

 

コンピュータープログラムなんてわからなくても本書は読めます。プログラムそのものはほとんど出てきませんし、たまに出てくるときは、ちゃんと説明がついています。

現代を生きる基礎教養として、読んでおいて損のない1冊だと思います。

今回、訳者あとがきは書いていないので、裏話的なことだけ、少し。

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2020年9月12日 (土)

トークイベント「英日翻訳に役立つ日本語学習のヒント」

日本語教育の研究も実践もされている横田亜朱紗さんを迎え、駒宮俊友さんが行われたトークイベント「英日翻訳に役立つ日本語学習のヒント」を聞いてみました。

こういう話、大事です。日本語の勉強って大事なのにやってる翻訳者が少なすぎると私は思っているので、このブログでも、日本語の話ばっかりしていたりするわけです。私自身、ここ20年、英語より日本語の勉強をしている時間のほうがず~っと長かったりしますし。

内容としては、例として、似て非なる表現の違いをいくつか取り上げ、そのあたりが解説されている本などが紹介されたりしました(↓)。また、少納言・中納言などのコーパスも簡単に紹介されました。

この部分で紹介された本、とりあえず、持っていなかったものは買ってみました。類似表現の使い分け辞典みたいなものはあんまりなかったりするので、ちょっと楽しみだったりします。翻訳の現場でどこまで使えるか、届いたら使ってみたいと思います。


■『くらべてわかる日本語表現文型辞典』

『くらべてわかる日本語表現文型辞典』は類似表現の使い分け辞典という感じで、かなり使えるのではないかと期待しています。

■『基礎日本語文法』

こちらは、いわゆる文法書。すでに持っているものがあるなら、とりあえず、買う必要はないかもしれません。私は、一応、持ってますが……あんまり参照した記憶がありません(^^;)

ちなみに、Sakinoさんは、『日本語の文法 』をよく参照されてます。

 

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『知覚と行為の認知言語学:「私」は自分の外にある』

これはいい。おすすめです。私は、あとでまた読む本、くり返し読んで考える本の棚に置くことにしました。

■『知覚と行為の認知言語学:「私」は自分の外にある』

去年、翻訳フォーラムのシンポジウムで「日本語は人がにじみやすい」という話をしたら、目からうろこだったと言われたので、以来、そこここで語るようにしています。なのですが、みんな、意外に気がついていないということは、もしかすると、私の思い込みにすぎないのではないかという懸念も感じてきました。

どうやら、そういうことではなかったらしいと安心させてくれたのがこの本です。

というわけで、この「人がにじむ」とはどういうことなのかと興味を持った方がおられたら、本書を読んでみることをおすすめします。

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2020年9月 6日 (日)

翻訳フォーラム公開セッション@日本通訳翻訳フォーラム関連のまとめ

先日8月25日に行った翻訳フォーラム公開セッション@日本通訳翻訳フォーラム、ピークで600人近い方に聞いていただいたし、その後も、JITF2020のチケットを買ってある人はアーカイブで見られるので、ツイッターなどに感想がたくさん書かれています。そのまとめができたので(mikoさん作)、メモしておきます。

ブログ記事として感想などを書いてくださっている方も何人かおられます。

ふだんはリーチできない通訳系の人も含め、多くの方になにがしかの刺激を届けることができたようです。

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2020年9月 4日 (金)

明示的に書かれていること・暗示的に書かれていること ―― 補足

昨日のエントリー、「書かれていること・書かれていないこと vs. 明示的に書かれていること・暗示的に書かれていること」で書き漏らしたことがあるので、書いておきます。

なにを明示的に書き、なにを暗示的に書くのか、それを切り分けるポイントとなるのは、昨日のエントリーに書いた「読者が持っているはずの知識・常識」以外にもいろいろとありえます。なかでも我々翻訳者に大きく関わるのが、言語による違い、です。

(このあたり、なんどかブログで取り上げています。ただし、それらを書いた当時は、明示的・暗示的という書き方の違いだという認識はありませんでした。この記事と、ここからリンクを張っている過去記事とを読み比べると、いま、一般的に言われたりしていることが、明示的・暗示的という考え方で整理できるということがわかるのではないかと思います)

『わかるものを省略』と『必要なことを言う』の違い」では、日本語とは、もともと、「必要なことだけを表に出す」言語で、基本的な考え方が英語と大きく違うと指摘しました。

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2020年9月 3日 (木)

書かれていること・書かれていないこと vs. 明示的に書かれていること・暗示的に書かれていること

先日、ツイッターで、とある方と、「何も足さない・何も引かない」について意見を交わす機会がありました。その後、こういう説明にしたら、もしかしたらわかってもらいやすいのかもと思ったことがあるので書いておきます。

「何も足さない・何も引かない」とは、字面の問題ではなく、あくまで内容の問題、翻訳フォーラムで「絵」と言っているレベルの問題であることは、このブログでも何度か取り上げています。

誤解されやすい翻訳業界の常識-直訳 vs. 意訳

ここで問題になるのが、何をもって「何も足さない、何も引かない」というか、です。単語の並びなど、形の上で「何も足さない、何も引かない」ようにすれば、それは字面訳にしかなりません。翻訳では内容レベルにおいて「何も足さない、何も引かない」ようにしなければならないのです。

以下の式を実現するのが翻訳だ、と言ってもいいでしょう。

原文を読んだ読者が受けとる情報(=著者が伝えたいと思った情報)
= 訳文を読んだ読者が受けとる情報

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2020年8月30日 (日)

『「は」と「が」』

「は」と「が」という使い分けがよく話題になる言葉について、包括的に分析した良書です。10年以上前に読んで、よくまとまってるなぁ、「は」と「が」でおすすめするならこの本かなぁと思ったのに、ブログ記事も書かず、ほったらかしてしまいました。今回、こうして紹介するためもあり、読み返してみましたが(また読む本に分類していたのに、10年以上も再読していなかった……)、やはり、よくまとまっているし、この10年ほどで、これ以上の本には出会っていないなぁと思いました。

『「は」と「が」』

先行研究をいろいろと紹介しつつ、それを統合する原理を提案する、という形で論が進みます。

日本語文法研究に一石を投じられれば、と、著者が前書きに書いていることからも明らかなのですが、本書は、いわゆる日本語文法の専門書に分類されるものでしょう。ですから、必ずしもわかりやすいとは言えません。専門書にしてはとてもわかりやすく書かれているとは思いますけど、ね。

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2020年8月27日 (木)

以上・以下 ―― 補足

10年以上も前に書いた記事、「以上・以下」に対する補足的な話です。「以上・以下」ってなにが書いてある記事だっけと思った方は、そちらを読み直してから、こちらに戻っていただいたほうがいいと思います。

さて、この昔の記事で、例に時間を取り上げました。この時間ってやつ、実はとてもやっかいでして。時間そのものは連続量なんですよね。でも、それを分とか日とか、塊として把握し、数えたりするわけです。そのときのイメージは、基本的に、離散量。基本的にってことは、必ずしもそうじゃない側面があったりなかったりするわけで、話がややこしくなります。

たとえば、その塊以上・以下とか、その塊を超えるとかっていうのは、どういう意味になるのでしょう。

「以上・以下」では分を使ったのであまり気にならなかったと思うのですが、日のような大きな塊になると話はかな~りややこしくなります。

あるところでの議論で「4日を超える」に基準点の4日は含まれないから、それは「5日以上」に等しい、みたいな話が出ていました。日という離散量を語っているのだととらえるなら、そうなりますよね。

でも、時間というものは、本来、連続量。ほんとに、離散量として取り扱っていいんでしょうか。

そもそも、1日とはなんでしょう。幅のあるものなのか、点として認識するものなのか。幅があるとしたら、それは24時間? カレンダー的な1日(午前0時~午後12時まで)?

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